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2012年6月29日 (金)

君は僕だ

words

 「Flower」について書いたのが、ちょうど1年前。
 その時、秋元康は前田敦子にあふれるほどの感謝と愛を込めてflowerを贈った。彼と彼女の夢は、大輪の花を咲き誇っていた。


 それから1年、前田敦子はAKBを去ることになった。
 どんな花も咲いたら散らなければいけないわけだ。

  初めて会った時/目も合わせなかった
  人見知りと知るまで/君を誤解していた

 彼女は会う人会う人にお愛想の笑顔を振りまく女の子じゃなかった。ソロに近いユニット曲を与えられて、歌うのが嫌だと泣いた。
 頑固と呼ばれ気まぐれと呼ばれ、およそアイドルの資質なんかゼロのように見えた。でも、彼女しかいなかった。


 彼のことを、取り巻きは天才作詞家、敏腕プロデューサーと褒めそやした。でもそうじゃないのは自分が一番よくわかっていた。
 金の匂いに敏感な「業界の鮫」とけなす者もいた。でもそんな大層なもんじゃなかった。どんなに成功しても「ここは自分のいるはずだった場所じゃない」という思いが、いつも彼につきまとって離れなかった。


 そういう二人だった。

  君は僕だ/そばにいるとわかる
  みんなのように/上手に生きられない

 作詞家、プロデューサー、そして何よりも現役のアイドルを嫁さんにしちゃうほど生粋のアイドルヲタである秋元康の夢の結晶であるAKB48。そのコアにはいつも前田敦子がいた。
 そして夢は花開いた。ように見えた。

 
 秋元康は、前田敦子のことを「目の中に入れても痛くないくらいかわいい」と表現しようとして言い直した。「目の中に入れたら痛かったよ」と。
 そう、どんなに痛いとわかっていても、目の中に入れずにはいられないほど、前田敦子は愛おしかったんだ。


 その前田の「卒業」。


 2012年3月25日、さいたまスーパーアリーナ。
 突然の「卒業宣言」に「業界」は文字通り震撼した。
 秋元は関係者に事前の告知も、根回しも、相談も一切していなかった。あの瞬間、SSAの関係者席で秋元の周りにいた「大人たち」はみな一斉にひっくり返ったという。

  君は君だ/好きなように生きろ
  まわりなんて/気にしちゃつまらないよ

 なあに、大人の事情なんざ知ったこっちゃない。君が好きなようにしたらいい。


 その後どれだけのトラブルが秋元を襲ったのだろう。
 「AKB48不動のセンタ-前田敦子」の名前には巨額の値札がついている。毛一筋の傷がついただけでも億単位の金が吹っ飛ぶ。それが卒業とは。


 「代理店の人が謝って回ったんじゃないですか」と彼はこともなげに言う。でも防波堤となってこのトラブルの波から前田を守れたのは秋元以外にはいなかったろう。

  君は君だ/自由でいて欲しい
  悲しみに出会っても/すぐそばに僕がいる
  どんな時も/心配しなくていいよ

 卒業が決まって、彼女はすっかり明るくなったと人々は言う。センターの重圧がどれほどだったのか、改めて思い知ったとも。


 一方、卒業が決まって、彼もちょっと変わった。
 彼は彼女のことをずっと「前田」と呼んでいた。どんなに痛くても目に入れずにはいられないほど愛する少女を、ことさらに突き放すように。
 卒業が決まってから、彼はいつの間にか彼女を「あっちゃん」と呼ぶようになった。人一倍自意識の強い彼が無意識のうちに、「あっちゃん」と。
 彼女はその瞬間を憶えていた。

前田:私は憶えてるんです。この間の総選挙が終わった後に、みんなでご飯を食べている時に、秋元さんが、ちょっと立って、向こうの大人の人たちの中に混ざろうとした時に「あっちゃんちょっと後ろごめんね」って。それがきっかけで…
秋元:何かさ、すごい娘と和解した感じだよな…
オールナイトニッポン 2012/6/15

 二人の関係が変わった瞬間。それは和解というよりも、新たな出会いじゃなかったのかな、と思う。
 その時秋元もまた、ずっと背負っていた重い荷物のひとつを降ろしたのに違いない。

  僕は僕だ/勝手にさせてくれ
  強がりのすぐそばに/いつだって君がいる

 歌はこう結ばれている。でもあっちゃんは去って行くだろう。秋元もそれは知っているだろう。


 先生も男の子なら、最後までカッコつけなくちゃね。

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