友情

2012年10月27日 (土)

くまのぬいぐるみ

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 ただいま恋愛中、もしくは愚かにして切ない恋愛の諸相・第1幕第2場
 「女の友情」


 昼下がりのカフェのテーブル。女性が二人会話している。
 会話といってもさっきから話をしているのは片っ方の子だけ。
 長いソバージュの髪をいじりながらしゃべって食べて電話して、まことにもって忙しい。
 それを微笑みながらじっと聞いているのは、大柄な女の子。組んだ細い指の間に、ときおり漏らすため息に、しゃべり続ける彼女は気がついていない。


 (まったく、あんたったら)。

  幼稚園から変わらない/ずっとあんたは忙しない
  Boo!

 「え? 何か言った?」
 「何にも」。
 心の中でちょっとブーイングしただけよ。
 「あらそう。だからね、あたし言ってやったの。そんな風にしか女を見られないようじゃいつになっても…」


 いつからだろう、彼女と私の関係。何かトラブルがあると私を呼び出して、マシンガンのように愚痴をこぼし、泣き、笑い、怒り、全てが済んだらさっさと風のように去っていく。


 幼稚園からの幼なじみ。
 小学校の時はライバルだった。勉強でも運動でも、男の子でも。
 勉強も運動も、たいていは私が勝ってた。でも、男の子の人気を集めるのはいつも彼女だった。
 中学生になると、競い合うのが馬鹿馬鹿しくなるくらい彼女は美しくなっていった。


 もちろんずっと一緒だったわけじゃない。高校の時、思い出すこともできないほど些細なことで喧嘩して、半年くらい口をきかないことだってあった。仲直りのきっかけも憶えてない。


 ただ思い浮かぶのは、彼女の胸に顔を埋めて泣いている私。そして「バカ」と言い続けながら自分より背の高い私を抱え込むように抱きしめている彼女。
 

 私にも人並みに彼氏がいたこともある。
 男の子たちと遊ぶのはそれなりに楽しかった。
 でも。


 一度だけ、彼女の唇にキスをしたことがある。


 眠っているはずの彼女は、むにゃむにゃ言って私の首にかじりついてきた。
 そのまま私たちは抱き合ったまま朝まで眠った。
 ああそうだ、あれは最後に父と母がひどく罵りあった夜だった。
 大雨の中、家を飛び出して来た私に「大丈夫、あんたにはあたしがいるわ」と真顔で言っておきながら、さっさと先に寝てしまった彼女。


 「ところであんたはどうなの?」
 「どうなのって?」
 「どうして次の人探さないのよ?」
 「あのね、世の中にはね、よその人がたくさん食べてるのを見てるだけでお腹いっぱいになっちゃうって人もいるの」。
 「そういうこと?」
 そう。そういうこと。

  色褪せたくまは/耳が破れているのに
  愛着があるから/捨てられない

 ウィニコットによる「移行対象」よね、結局。ちぇ。アキモト先生、てっきりユング派だと思ってたのに。


 私に足りないものは、全て彼女が持っている。
 彼女が必要とするものは、全てではないけれど私の中にある。
 完璧に満たされることはなくても、それでも十分ハッピーじゃない?
 

 「ねえ、あんた人の話聞いてるの?」
 「ごめんごめん、全然聞いてなかった。それで?」
 「それでじゃないわよ。とにかくあたしは今すぐ決めて欲しいって言ったわけ。もし決められないのなら…」


 大丈夫。私があんたを守ってあげるわ。たった1人っきりになっても。
 一緒じゃなくてもずっと一緒よ。

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